『ダナエ』
『ダナエ』 藤原伊織 (文芸春秋)
画家の宇佐美は、個展の最中に絶賛されていた肖像画を何者かにナイフで切り裂かれ、硫酸をかけられてしまった。
その手口は、かつてエルミタージュ美術館でレンブラントの《ダナエ》に起こった悲劇と酷似していた。
いったい犯人は何のためにこのような行為をおこなったのか?
ギリシア神話に出てくるダナエは美しい女性とエロティックな要素が絡むことで、多くの画家たちによって描かれてきた画題だ。
話の内容は‥‥
アルゴス王アクリシオスは一人娘のダナエが産む男の子によって、自分が殺されるという神託を受ける。
そのため王はダナエを塔に幽閉し、誰も近づけないようにした。
しかし、ダナエを一目見たゼウスは、自身を黄金の雨に変えて塔に忍び込み、彼女と交わる。
レンブラント・ファン・レイン《ダナエ》
グスタフ・クリムト《ダナエ》
ヤン・ホッサールト《ダナエ》
話を小説に戻すと、帯には「黙って泣いた。」とあったが、私にはどこが泣き所なのかサッパリ分からなかった。
一言で言うと、「男のわがままの話」で、それがゲージュツカということでさらに甘えの構図が許されるという典型的な内容。
如何に主人公の宇佐美が自責の念に駆られた人生を歩んできたとしても、結局のところ彼が「許された存在」に落ち着いたところは、著者も男なのだなぁと思った。
『墜落のある風景』と『ダナエ』二冊とも絵画がらみの小説ということで読んでみたが、主人公の男性はどちらも好きになれず、ちょっと残念か。