『花と火の帝』 

花と火の帝(上) (講談社文庫)   花と火の帝(下) (講談社文庫)

『花と火の帝 上下』 隆慶一郎 (講談社文庫)

徳川家康、秀忠の徳川幕府は朝廷に畏れを抱きつつも、その力を弱体化させるべく様々な陰謀をめぐらせていた。

その中にあって弱冠16歳の若さで即位し、時に苦渋の選択もしながらも、けして幕府に屈服することなく波乱万丈の生涯を送ったのが、後水尾天皇だった。

そして、その帝に非凡なる才能と強運を確信し、自ら「天皇の隠密」として仕えたのが、鬼の子孫といわれた八瀬童子の流れを汲む異能者、岩介だった。

岩介は幼いころ天狗にさらわれ、その間、異国で心身ともに超人的な能力を身につけていた。誰もが死んだと思っていたが、ある時ひょっこりと舞い戻り、その能力を帝のために使うことになったのだ。

先帝に嫌われていた若い後水尾天皇は、常に影として存在する岩介と心通じるものがあり、次第に信頼関係で結ばれるようになる。

朝廷に「自由な風」という言い方が適当か分からないが、根が明るい岩介と才気あふれる帝にはそう呼ぶにふさわしい雰囲気があり、清清しさを感じた。

禁中並公家諸法度の制定、秀忠の五女・和子の後水尾天皇への入内など、朝廷の在りかたが激動する中で、帝も自問自答し悩む。意志ある帝像が魅力的だった。

岩介が繰り出す術は荒唐無稽で全くもって人間離れしているが、一方で敵さえも味方に引き入れる人間的魅力も持っていて、そこが好感の持てるヒーローになっていた。

壮大なスケールの伝奇ロマン。隆氏の絶筆となった作品で未完。 つくづく惜しいなぁ‥‥と。

久しぶりに「八瀬童子」の文字が懐かしく、昔読んだ猪瀬直樹『天皇の影法師』をぱらぱらと拾い読みした。

天皇の影法師 (新潮文庫)      天皇の影法師 (朝日文庫)

八瀬童子というのは、洛北の八瀬の住人の中から特に選ばれて天皇に出仕した者のことで、「駕輿丁(かよちょう)」(輿丁)として天皇の輿や駕籠を担ぐ仕事の他、お風呂の支度をする「お湯」、厠の後始末をする「お厠(とう)」などの仕事をしたそうだ。

「棺をかつぐ」の章では、明治天皇、大正天皇の輿を実際に担いだご老人の聞き取りを中心に書かれていて読み応えがある。

私が持っている新潮文庫版の解説は久世光彦だが、朝日文庫版『天皇の影法師』の解説は網野善彦が書いていて下記で読める。隆慶一郎の名前も出てきて面白かった。

「日本国の研究 不安との決別/再生のカルテ」猪瀬直樹 

http://www.inose.gr.jp/mailmaga/mailshousai/2004/04-3-11.html