『失われた弥勒の手 安曇野伝説』
『失われた弥勒の手 安曇野伝説』 松本猛・菊池恩恵 (講談社)
ある日、波多野渉は安曇野警察から疎遠にしていた父親の死を告げられる。
遺体の傍に落ちていた手帳には「筑紫の君」「八面大王」「観松院」などの文字が記されていた。
渉は父親が何かを調べるために安曇野を訪れていたと考え、親友の信太郎を誘って拝観願いが出されていた観松院の菩薩半跏像を見に足を運んだ。
目にした菩薩像は30センチほど大きさだったが、小さな寺の仏像としては際立って高い技術で作られたものだった。
しかし、その右手はよく知られている弥勒菩薩のように頬に指を添えるような形ではなく、掌を正面に向けている施無畏印といわれる形で、菩薩半跏像としては違和感のあるものだった‥‥。
本書は、安曇野と深い繋がりのある古代安曇族の興亡を、謎の菩薩像を織り交ぜながら、小説仕立に描いた作品だ。
また、渉と共に謎を追っていく親友の信太郎は、二人の著者の関係を彷彿させ、小説を穏やかなものにしていた。
安曇野、福岡の八女、対馬、朝鮮半島と旅を続けていくにつれ、安曇族が生き残る地を必死に求めていた姿が見えてくる。日本各地に残る安曇族の痕跡を示す地名もとても興味深かった。
図書館でたまたま手に取ったのだが、安曇野にこんなにミステリアスな歴史があったとは知らなかった。
う~ん、信州は奥が深かった。信州を旅した折には是非安曇野を訪れ、書かれている史跡を廻ってみたいものだと思った。
恥ずかしながら存じ上げなかったが、著者の松本猛氏はいわさきちひろ氏の御子息で「ちひろ美術館」を設立、現在「安曇野ちひろ美術館」の館長もなさっている方だそうだ。