『武王の門』

武王の門〈上〉 (新潮文庫)武王の門〈下〉 (新潮文庫)

『武王の門 上下巻』 北方謙三 (新潮文庫)

南北朝の争乱の最中、後醍醐天皇は皇子たちを日本各地へ向かわせ、北朝方との抗争に備えていた。

その中の一人、懐良(かねよし)親王は弱冠8歳にして征西大将軍に任命され、九州統一に向けて旅立つこととなった。

懐良親王の九州統一の軌跡と彼を支えた九州の豪族・菊地武光との深い絆を描いた歴史長編。

14世紀の一時期に懐良親王(征西将軍宮)が統治した九州を、自由な気風を持つ勢力として描いていたのがとても新鮮だった。

九州を平定していくにつれ征西将軍宮は、九州を一つの独立国家のように構想していく。

まず武士を土地から切り離し、貨幣をもって武士への恩賞としている。その貨幣を得るために産業を促し、盛んに外国と貿易をして貨幣を蓄えることにつとめる。

王の軍隊はその貿易を外敵から守るためや、治安を維持するために保持する。水軍を充実させ、山の民までも味方につけ、外国とせめぎ合いながらも積極的に交流していく。

征西将軍宮の思いは南北朝の争いを超え、やがて見果てぬ夢として息子へと引き継がれていく‥‥。

多くの登場人物の中で、運命的な出会いと生涯変わらぬ信頼関係を保ち続けた菊地武光、兄弟のように育ち懐良の影となった五条頼治は、自分の人生を生き切ったという印象があった。

男同士の友情とロマンと書くとどうもこそばゆいが、著者のそういう思いが強く感じられた。

上巻は、歴史に疎いこともあって歴史上の人物の名前をはじめ、なかなか話の筋が掴めず、盛り上がりも散発気味で正直読むのに苦労した。下巻に入るといきなりテンポ良く読みやすくなってきた。あとがきを見たら上巻は連載をもとにしたもので、下巻は書き下ろしとのことだった。

網野さんの著書を読んでから、ますます中世に興味が湧いてきたところだったので面白く読めた。網野史学にいう無縁者の力や開かれた列島の多様性が感じられる本だった。

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