『殺人格差 ミステリー傑作選』 

殺人格差 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

『殺人格差 ミステリー傑作選』 日本推理作家協会編 (講談社文庫)

本書は『ザ・ベストミステリーズ2003』20編のうちの10編。あとの半分は『殺人の教室』に収録されているそう。

収録作品は石田衣良「キミドリの神様」、横山秀夫「第三の時効」、高橋克彦「鬼女の夢」、北村薫「虚栄の市」、舞城王太郎「ピコーン!」、柄刀一「密室の中のジョゼフィーヌ」、本田孝好「WISH「MOMENT」より」、朝松健「荒墟(あれつか)」、翔田寛「別れの唄」、北原尚彦「首吊少女亭」。

特に、はじめて読んだ舞城王太郎「ピコーン!」には驚いた。

主人公の「わたし」は、暴走族に見切りをつけて、大検の受験を考え、将来のまっとうな暮らしを思い描いている高校中退少女。

族仲間で同棲中の哲也とも将来のことは話し合わねばならん、と思っている今日この頃。

しかし、突然哲也は奇妙な死体で発見される‥‥。

兎に角、ストーリーより何より文体が面白く一気に読まされた。

 田植え機が入ったあとの植え残しを補うために腰の曲がった老人さん達が手ぬぐいを載せた頭に麦わら帽子をかぶって広い田んぼにぽつぽつと入ってちょいちょいと水面で手を動かしながらかがんだままで微動中。わたしはそれを横目に県道を突っ走りながら空想の反芻の真っ最中。陽春の天気の良さを満喫する気分は現実の行動によって遠ざけられてはいるものの、しょうもないバイトに急ぐわたしもそれでどれだけ収穫が変わるのか判らないってのに泥の中に膝下まで浸かって腰を曲げているあの老人さん達だって、きっとちゃんと日光を浴びて嬉しい気持ちなのだ。みんな生物だから。わたしは嬉しい気持ちの勢いを借りて決定。哲也に直球勝負だイエー。ペダルを踏むサンダルが勢い余ってガコンッ。(p278~279)

改行なしの一続きだが、これでも短い方。一ページ改行なしに文字が埋まっているのを見るのは何だか壮観だった。

自分好みでオノマトペの多用は夢野久作を、ずらずら続く文章は鏡花を思い出したが、どちらともスピード感という点で全く違っている。時代の速さかなぁとも。

独特な文体がスピード感と力強さをもっていて、その強引さが心地よかった。スラングも多かったがアッケラカンとして嫌味がなかった。別の作品も読んでみようかな。

もう一つは、これもはじめて読む作家で朝松健「荒墟(あれつか)」が面白かった。

万人恐怖の治世であったという六代将軍足利義教。その義教を生まれつき痛みや恐怖を感じられぬ人間として描いた時代伝奇ホラー。

少年の身体を切り刻みながら、自らの無感覚に絶望しつつ「何か」を見つけ出そうと、血と肉と腸にまみれる少年義教の描写が凄まじかった。

壊れた者の強さ、無い者の強さは常人の想像を軽々と超える。つくづく恐ろしいものだと思った。