「ジョットとその遺産展」
新宿の損保ジャパン東郷青児美術館で「ジョットとその遺産展」を見てきた。
ここは2005年の「プラート美術の至宝展」2007年の「ペルジーノ展」と、他の美術館ではあまりやらない企画展が面白い。
フレスコの作品やテンペラの板絵、祭壇画など現地でなければなかなか見ることが出来ない作品に出会えるので、いつも楽しみにしている。
今回もこの流れに沿った企画展で、「西洋絵画の父」といわれたジョット(1267年頃~1337年)を起点にすえた展覧会だ。
ジョットの存在がルネサンスを花開かせたといっていいほど「人間」の表現がジョット以前と以後では違う。
イコンのような記号的な人物像ではなく、生身の人間を描き出したことで人間中心主義ともいえるルネサンスへと続く道を切り開いたといえるのだろう。
「ジョットの革新」 (会場の掲示板から)
・ 輪郭線のぼかし、明暗で立体感を出す。
・ 表情や身振りに真実味を与える。
・ 三次元的な奥行きを生み出す。
・ 全体が簡素で自然な印象になるよう細部を省き整理する。
ジョットの作品は4点で数は多いとはいえないが、その中でこの壁からはがされたフレスコの作品が一番良かった。繊細な表情に見入ってしまう作品だ。
ジョット・ディ・ボンドーネ《嘆きの聖母》
展示はないが、彼の師であるチマブーエの作品に比べると数段に人間の量感が増しているのが分かる。
チマブーエ《十字架のキリスト》の部分のマリア像
ヴァザーリの『ルネサンス画人伝』では一番目がチマブーエで、二番目がジョットになっている。
ジョットの逸話―ある日ジョット少年は、羊の番をしながら平らな石にとがった石で羊の写生をしていた。そこにフィレンツェから当地を訪れていたチマブーエが通りかかり、絵がみごとなのに感心して「自分と一緒に来ないか」と声を掛けた。ジョット少年は父親の許しをもらってチマブーエと共にフィレンツェへ旅立った。―というものだ。
信憑性はさておき、イタリアの光溢れる中、絵のようなシーンが目に浮かぶではありませんか。
ジョットの偉大な壁画としてアッシジの聖フランチェスコ大聖堂とバドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂のそれがあるが、本展ではスクロヴェーニ礼拝堂の壁画のパネル展示があった。
まあ、実物はなかなか見に行けそうにないので、パネルとは言えありがたい。この礼拝堂には「キリスト伝」「マリア伝」「ヨアキム伝(マリアの父)」と「最後の審判」、「七美徳・悪徳像」が描かれている。美しい青が印象的で、それぞれの場面を描いた絵が列挙されている。
ジョット・ディ・ボンドーネ《東方三博士の礼拝》 スクロヴェーニ礼拝堂
中でも《東方三博士の礼拝》には1301年に近づいたハレー彗星が描かれているとのことだ。
何だかジョットもその時代の人々も、今こうして見ている私達も、同じ地球上の人類なんだなぁと感慨深かった。
ジョット・ディ・ボンドーネ《憤怒》 スクロヴェーニ礼拝堂
美徳・悪徳像はグリザイユで描かれていて、色鮮やかな中に変化をつけていて面白い。壁画にこうしたグリザイユが組み込まれていることがよくあるが、彫刻的絵画というか、トロンプルイユというか。大理石像を描くことで絵画の優位を示したものか。興味深い。
ネットでスクロヴェーニ礼拝堂を見渡せるサイトがあって、なるほどこういう具合になっているのかと納得。
「大塚国際美術館」 スクロヴェーニ礼拝堂(ヴァーチャルツアー)
http://www.o-museum.or.jp/japanese/virtual/01.html
他にも初めて知る画家の聖母子像や聖人画、携帯用の祭壇画など、美しく誠実に描かれていて心静かに鑑賞できる作品ばかりだった。
特に、昔から好きだったマゾリーノの《聖イヴォと少女たち》を初めて見たのが嬉しかった。
初々しく素朴な乙女たちはとても可愛らしい。最前列右の少女は、画像では分からないが白い歯が見える。ユニークな表情が何とも面白い。
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マゾリーノ・ダ・パニカーレ《聖イヴォと少女たち》 サント・ステーファノ・デリ・アゴスティニアーニ聖堂蔵
派手さは無くどちらかといえば地味な展覧会なのだが、興味深い内容で充実した時間を過ごせた。
次は渋谷に行って「ジョン・エヴァレット・ミレイ展」へ行った。移動距離が短いので助かる。
長くなったので「ミレイ展」の感想はまた別に。
「損保ジャパン東郷青児美術館」