それぞれの30年
今、新宿の紀伊国屋画廊で、「異質五人展」という展覧会が行われている。
リーフレットによると、藤山ハン氏の30年前に開催された「異質五人展」と同じメンバー、同じ画廊でとの構想のもとに実現した展覧会だという。
展覧会の案内を送ってくださったのは、私が小学校のころから油絵を習っていた絵画教室のS先生。今でも指導をされていて、展覧会のメンバーの一人である芥川麟太郎先生の奥様でもある方だ。
30年前17歳だった私は、紀伊国屋画廊にこの「異質五人展」を見に行った。
30年経ったのか‥‥と、当時のこと、それからのことを思い出し、感慨深いものがある。
芥川先生の作品は、以前は重厚な油彩が多かったが、近年はコンテや木炭を使った作品が多いように思う。
画材は変わっても、対象の本質を見極めようとする強い意志は変わらず、それが見るものに迫ってくる。
芥川麟太郎 《詩人 佐藤一英 頌》 43×60cm コンテ・木炭・アクリル材 2005年
《詩人 佐藤一英 頌》は一人の人間の肉体と精神とを掴もうとするような、厳しい線で描かれている。人間の存在とは何だろうと考えさせられるような作品だ。
先生の描く黒い画面は底が知れず、人間の持つ闇の深さを感じずにはいられない。小学生の頃はそんな暗い、見ていて辛くなるような絵が、少し恐かった。
けれど、いつのころからか先生の絵は、成長し変化していく自分にとって大切なものは何か、失ってはいけないものは何かを教えてくれるものになった。
それは今でも変わらず、これからも変わらないだろう。
最初気づかなかったが、画廊の入口の向かい側のショーウインドウにも、小さな作品が展示されていた。
《こども》と題されていて、お嬢さんの小さい頃だろうか、S先生の生徒さんだろうか。
私もこんな子供のころから、女の先生と男の先生(当時、通っていた生徒はそう呼んでいたので)と、お付き合いさせていただいているのだなぁと、しみじみあり難く、幸せに思った。
・リーフレットにあった《詩人 佐藤一英 頌》は、展示では《3月22日に捧ぐ》(三春母堂へ) となっていますが、ご本人がお亡くなりになったとのことでした。(作品画像は許可を得て載せたものです。)
「異質五人展」 ―1978年より2008年の軌跡―
芥川麟太郎、恵藤求、加藤芳信、木下晋、藤山ハン(敬称略)
2008年7月31日(木)~8月10日(日)
AM10:00~PM6:30 (最終日 PM6:00)