対決-巨匠たちの日本美術 その二
今回ばかりは蕭白のド迫力の陰に隠れてしまったような若冲だが、相手は自己最高クラスを並べてきたのだからしょうがない。
若冲はユニークな作品が展示されていたので、十分満足だった。
《石灯籠図屏風》は、何といっても、灯篭や石柱を米粒のような楕円を用いた点描で表わしているのが特徴。
《石灯籠図屏風》 左隻
左隻 部分
私はずっと見ていると、どうも点々が気になってムズムズしてくる感じで落ち着かない。
それと、松の支柱の節目が文字通り目のようで気持ちが悪い。灯篭も何やらお化けのようで、若冲の《付喪神図》を連想させた。
《付喪神図》 部分
他にも左隻のパターン化した葉や蛇のような幹など、遊び心満載で技法も含め、本当に風変わりな屏風だ。
《仙人掌群鶏図襖》は天明の火事で焼け出された若冲が、大阪の薬種問屋・吉野家に身を寄せ、その依頼で西福寺(吉野家は檀家)に描いたものだそうだ。薬種問屋ということで当時珍しいサボテンもあったのだろう。
鶏とサボテンという組み合わせが斬新で面白い。
《仙人掌群鶏図襖》
《仙人掌群鶏図襖》
ところで、以前から画集で見てずっと気になっていたのだが、左右の端にあるサボテンと一緒に描かれている「青いもの」は一体なんだろう?
今回初めて実物を見てますます気になってしまった。
太湖石らしい、(太湖石については拙ブログ)と書かれたものがあるが‥‥。
《菊花流水図》
なるほど右端の青いものには茶色の部分や苔のようなもの描かれていて、菊花流水図にあるものと似ている感じもする。
でも左端のサメのようなものはデフォルメし過ぎていてよく分からない。逆にこれとそっくりな何かがあったのだろうか? 見れば見るほど不思議な形だ。
とは言え、結果的には奇妙な形と鮮やかな青がサボテンに絡んでいることで、異国情緒溢れるサボテンが強調され、より魅力的で変化に富んだ襖絵になっていることだけは確か。
蕭白と若冲以外で良かったのは、俵屋宗達。琳派のなかでは一番好きな画家。
《蔦の細道図屏風》は絵画性とデザイン性、具象と抽象、クラシックとモダンが渾然一体となった傑作。
さらに、右隻と左隻をどちらに置いてもつながる構図になっているとは、天才の余裕かと。
画像はズレてしまった~。
もう一枚は《狗子図(くしず)》これは本当に素晴らしい。
淡く描かれた早蕨が新しい生命の息吹を表わして、子犬の初々しさと生命力を一層引き立てているようだ。
《狗子図(くしず)》
たらし込みの技法で子犬の肉付けがなされていて、柔らかな中にもしっかりとした重みがあって、確かな質感と量感が伝わってくる。
心地よい自然な濃淡を作り出しているテクニックとセンスが凄い。
ずっと、輪郭線がない没骨法で描かれていると思っていたが、カタログの説明には輪郭線を残す「彫り塗り」が用いられているとあった。輪郭線があるとは気が付かなかったが。
この絵で思い出すのは、澁澤龍彦の『太陽王と月の王』に収録されている「宗達の犬」という短いエッセイ。
動物を飼うのを好まない澁澤が、こんな可愛い犬なら飼ってみたいと言う。また、近頃(書かれたのは1979年)都会では見かけないが、旅行で地方に行く度にこういう素朴で無垢な犬を見かけ、その時は妻に「ほら、宗達の犬がいるよ。」と声をかける。
二人の間では宗達の犬というだけで意味が通じる。というようなことが書かれている。
キャンキャン騒ぐくせに、ひ弱そうな愛玩犬は私も苦手だ。それに比べて宗達の犬は純粋で力強く、生命の輝きがある。生き物の理想の姿かもしれない。
特別展「対決-巨匠たちの日本美術」
「対決-巨匠たちの日本美術」バーチャル美術館