次の次は裏切らなかった

秋の牢獄

『秋の牢獄』 恒川光太郎 (角川書店)

収録作品は、『秋の牢獄』 『神家没落』 『幻は夜に成長する』の3編。

ジャケ買いする訳ではないが、正直『雷の季節の終わりに』の表紙はどうもイマイチ好きになれず、内容も、それとシンクロしたような感じだった。

『秋の牢獄』のジャケット。うん、これは何か雰囲気醸し出してるじゃん。

本を開くと、見開きでジャケットと同じ絵の別バージョンが現れる‥‥繰り返し。この繰り返しも、後から思えば、そうかな?

『秋の牢獄』は主人公である私が、十一月七日を普段どおりに過ごして眠りにつき、翌朝目が覚めると、また十一月七日に戻ってしまった。というところから始まる。

以後延々と七日を繰り返し、八日は来ない!

絶望した私にある時一人の男が声を掛ける。彼も同じ仲間で、他にも同じような人たちがいるという‥‥。

我が身を振り返ると、毎日同じような日々を過ごしているが、確実に直線で時間が進んでいる。

円循環の時間に恐怖を覚えた。いつか命が尽きるというのは幸福なことだと思う。

最高のスリルを味わって死んだとしても、どうせまた生き返って同じ十一月七日。何回も繰り返せば飽きるだろう。

唯一つ、リプレイヤー(同じ日を繰り返すものをそう呼ぶ)にも、救いの存在があるのだが‥‥。

『神家没落』は一人の人間を閉じ込めたまま、日本中を神出鬼没する迷い家(マヨイガ)の話。

ある時ある場所に出現する藁葺き屋根の家。そこに入り込んだ人間は、中にいた人間と入れ替わりにその家に幽閉され、次の人間が来るまでけして出る事が出来ない。

中にいるものは出たがり、外へ出ると中が恋しくなる。囚われることの複雑な心理。

春の夜に、ほろ酔い加減で件の家に迷い込んだ男の、甘美な余韻が味わい深かった。

ふと、結婚を籠の中の鳥に例えて、中にいる鳥はやたらと外に出たがり、外にいる鳥はやたらと中の鳥が気になる、といった諺かなんかを思い出したりっと‥‥。

『幻は夜に成長する』は幻術を操る祖母に育てられた少女が、自らもその能力に目覚めるも、ある教団に祖母同様その力を利用され‥‥。といった内容。

3編とも、ある種の牢獄に囚われる事を描いていて、どれも秀逸。私は『神家没落』が一番面白かった。