大牙小説なのか?
『ベルカ、吠えないのか?』 古川日出男 (文春文庫)
書評で面白いと評判だったので、読んでみることに。
あらすじは‥‥
1943年、日本軍は奇跡の作戦といわれた「キスカ島撤退作戦」を行い、一人の犠牲者も出すことなくキスカ島を脱出した。
だが、その地に見捨てられた命があった。
彼らは北、正勇、勝、エクスプロージョンと呼ばれた4頭の軍用犬だった。
彼らを始まりとするイヌたちが繁殖を繰り返し、国や思想を超えて世界に分散していった。
イヌたちを通して20世紀という戦争の世紀を検証していくという、今までに無い斬新な切り口の近現代史だ。
まず、軍用犬が存在自体あまり知らなかったので、それがとても興味深かった。
人間の言うことを理解し、嗅覚に優れ、攻撃力もあり、しかも忠誠心があって裏切らない。戦争に利用しない手はないのだろう。
今は能力が細分化されて活用されているようで、警察犬とか災害救助犬、アニマルセラピー犬というのも聞いたことがある。
普通に飼われている犬だって、飼い主にとっては時に人間以上の存在になってその人を支える。
考えてみると、イヌの歴史はヒトとの共存の歴史、動物の中でも特異な存在なのかもしれない。
ディズニーの動物もののようなファンタジーでも無く、イヌがヒーローを演じたりするわけでもないが、小説の中でちょっと気になったのは、単なるイヌの交尾に擬人化した表現を使いすぎること。
女性としてはやや抵抗ありで、かえって動物の本能を卑しめているようで、違和感があった。
とは言ったものの、今までに読んだ事がない小説。今どきのエンターテイメントは凝っているなぁ、というのが正直な感想。