又兵衛と一蝶
東博のメルマガで英一蝶の《布晒舞図(ぬのさらしまいず)》が、重要文化財に新指定さたことを受けて特別展示される事を知り、行ってきた。
「国宝 薬師寺展」は今回はパス。常設展をゆっくりと見て回った。
《布晒舞図(ぬのさらしまいず)》
ずっと見たいと思っていた作品だったので、対面したときは「おおっ、これだ!」という感じと共に、こんなに小さな作品だったのかと、少々驚いた。
空間を細かく切るような白い晒し布と、赤い着物のコントラストが華やかで美しい。
若い踊り子が、一心に芸に打ち込む緊張感が清清しい。
軽やかで洗練された線描は、画面を自由で明るい雰囲気で満たし、見るものをウキウキとした気持ちにさせてくれる。
しかし意外なことに、この作品は一蝶が足掛け12年の島流しの憂き目にあっている時に描かれたもの。
画中の署名は英一蝶ではなく、島流しの間に使われた名「藤牛麻呂」となっている。
遠くから江戸を思い続け、空想で舞う白い布をピタリと画面に定着させた力量は凄い。
軽やかに強かにというのは、一蝶の生き方そのものかもしれない。
実は予期せぬ幸運があって、信心深くもないが思わず神様に感謝した。
なんと英一蝶の隣に、岩佐又兵衛の《官女観菊図》があったのだ!
《官女観菊図》はこちらの画像がgood
http://www.yamatane-museum.or.jp/collection_intro.html
これはまるで小学館の「日本の美をめぐる №49」ではないか、ほんとビックリ。
メルマガには、紙本著色梓弓図 岩佐勝以筆と記述されていたので、又兵衛とは気がつかなかった。
一蝶の《布晒舞図》と又兵衛の《官女観菊図》と《梓弓図》が見られるなんて、これは幸運としか言いようがない。
《官女観菊図》は墨の濃淡がとても繊細で、ちょっと建石修志の鉛筆画のような硬質な色気があった。この微妙な味わいは印刷では伝わらないように思う。
一蝶ともう一つ、関根雲停がある「博物図譜―日本的研究の展開―」が今回のお目当て。
雲停の魚譜は、魚が色々な角度から生き生きと描かれて、一目でそれと分かる。
サワガニを描いたものは、細く鋭い線で何匹も何匹も描かれていて面白かった。
他に、サバ?の横に国芳の落書きよろしく、猫が二匹描かれていて、遊び心が実に楽しい。精密に描かれた羽根が美しいワシ図も、鋭いツメでしっかり魚の頭なんぞを掴んでいて、こちらも面白かった。
色々な博物図譜に、象やキリンのような珍獣や、河童まで登場して興味は尽きない‥。
これはもしや~?と思ったのが下記のような白いカワイイ生き物。思わず走り描きした(雑で恥!)「鯢魚兒」とあった。
「ウーパールーパー」
「鯢」というのはサンショウウオのことらしいが、これは昔流行ったウーパールーパー?全然詳しくないので分からないけれど。
16室は小さくて展示数も多くないが、何となく楽しいのだ。
「浮世絵」の展示では喜多川歌麿の《山姥に金太郎》シリーズ(4/8~5/6)がとてもよかった。
《山姥に金太郎・盃》
母親の限りない愛情と、それに見守られているという安心感でやりたい放題の男の子。江戸のどこにでも見られたような光景が、《山姥に金太郎》の中で繰り広げられていた。
歌麿という絵師がどういう生い立ちかは知らないが、母性に対する深い思いが感じられた。
また、金太郎が盥で行水をする一枚には、金太郎のそばにコップほどの大きさの手桶があって、子供のおもちゃか何かだろうかと微笑ましくなった。
兎にも角にも、今回《山姥に金太郎》を見たことで自分としては、歌麿株急上昇だ。
ところで、歌麿というともちろん美人画が素晴らしいのだが、「画本虫撰(えほんむしえらみ)」という動植物画の美しさは別格だ。初めて見たときは歌麿観が一変した。
「貴重書画像データベース」 (画本虫えらみ)で検索
同じ日に、西洋美術館で「ウルビーノのヴィーナス展」も見たが、私には東博の作品の方が印象深かったかな。
「東京国立博物館」
★特集陳列 平成20年新指定国宝・重要文化財
本館特別1室・特別2室 2008年4月22日(火)~2008年5月6日(火・休)
★特集陳列「博物図譜―日本的研究の展開―」
本館16室 2008年4月1日(火)~2008年5月25日(日)