フェルメールを見に。
「フェルメール「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展」を見てきた。
国立新美術館へ行くのは初めてのことだったので、建物にも興味があった。
外観はリズミカルで有機的な曲線が面白かった。正面入口から入ると逆円錐形の巨大な柱のようなものあり、それがとても印象的だ。一番上の円の部分はカフェになっているようだった。
風景にいきなり巨大な球やモニュメントが現れるクレス・オルデンバーグを連想した。
こちらの写真が雰囲気をよく伝えていたので。
http://www.flickr.com/photos/ikura/454613841/
館内では幾つか企画展が行われていたが、お目当てのフェルメールへと向かう。
月曜日にもかかわらず結構混んでいた。
おまけに《牛乳を注ぐ女》を見るに際しては、二重の通路(前列は近いけど歩きながら、後列は止まっていいけど遠い)が設けられ順番待ちしなければならない。この二重三重の鑑賞の仕方はレオナルドの《受胎告知》と一緒だ。
しかし今回、前列といってもかなり画面から遠い。2メートル位はあったように思う。
実物は45.5×41cmしかないのだから、もう少し近くして欲しかった。ライトの反射も気になり、絵の特徴の一つであるパンに描かれた光の点も見えにくいように思えた。
‥‥と文句ばかり言ってはいけない。
話の順番が後先になったが、まず会場を入るとフェルメールと同時代の「黄金時代」の風俗画がずらりと並ぶ。
同じ17世紀でもカトリックのカラヴァッジョとは全く系統の違う、プロテスタントの国、オランダ独特の「庶民」が中心に描かれている絵画だ。
母親や子供の様子、使用人のしぐさ、食事風景、酔っ払った男女の情景など、親しみやすい内容の絵が多いのは、一般の人が絵画を部屋に飾る習慣が生まれたからだろう。
何気ない日常を描いたものの中に教訓めいたものや、暗示があるのも面白い。
そこから次へ進んでいくとフェルメールがあるのだが、《牛乳を注ぐ女》にたどり着くまでに詳しい作品解説があり、ビデオでの説明もある。実物を見る前に色々ありすぎの感じもした。
ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》
やっと作品にたどり着くと、一目でそれまで見た同時代の作品とは違うと分かる。
フェルメールが描いたものは、先輩画家たちと同じ流れを汲んだ風俗画ではあるが、画期的な質の違いを感じざるを得なかった。
親しみやすい風俗を描いた点は同じだが、画面構成やテクニックは飛躍的に進化しているように見えた。
何より、画面がとても明るい。この明るさは印象派を髣髴させるに十分だ。
同時代の画家で室内の壁をこれほど明るく描いていたのは、他にはなかった。壁の白、上着の黄色、スカートの青と赤のコントラストがとても美しい。
かたそうなパンに光の点。一筋のミルクと共に脳裏に焼きつく白だ。
作品解説にはカメラオブスクーラ(カメラオブスキュラ)についての記述は全くなかったので(カタログは買わなかったので分からないが)それについてももう少し解説があってもよかった。
以前読んだデヴィッド・ホックニー『秘密の知識』でも、画家がツールとしてこれを用いることは、けして簡単なことでなく、しかも作品の価値を何ら損ねるものではないとの指摘もあった。
また、結城昌子『原寸美術館 画家の手もとに迫る』でもカメラオブスクーラに言及して、簡潔で納得がいく作品解説が述べられており、フェルメール作品の魅力を解き明かしている。
取り上げられいるのがこの《牛乳を注ぐ女》と《レースを編む女》で、原寸大の質の高い印刷なので、今回の展示が距離がある事を考えると、こちらの方が肉迫できると言えないことも無い。
フェルメールの静止は、単眼のレンズが見た正確さに由来するものなのだろう。
だが、フェルメールの素晴らしいところは、只単にカメラに映ったものを転写するのではなく、画面に遠近法を組み入れたり、逆に遠近法を無視したり、モチーフに工夫を凝らしたり、と複雑に画面構成して一つの作品を作り上げているところにあるようだ。
機械の目と、人間の目や感性が独特で静謐な世界をつくる。静かだが冷たすぎない人間性がそこにあるのではないだろうか。
卓抜した画面作りが、フェルメール独自の世界とリアル感を画面に描き出しているように思えた。
《牛乳を注ぐ女》の他は、あまり記憶に残る作品は無かったが、初めて見たクリストッフェル・ビスホップ《日の当たる一隅》は水彩画だが、油絵のような深みがあって印象に残った。
クリストッフェル・ビスホップ《日の当たる一隅》
テーブルクロスの角の光や、右上の板の隙間から漏れる光に、強くホワイトのハイライトをのせている。
厚みのある感じで、淡彩とは違う味わいがあった。
このあとサントリー美術館へ「BIOMBO/屏風 日本の美」を見に行った。自分としてはこちらの展覧会の方が面白かった。
「フェルメール「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展」
「国立新美術館」