スゴイ絵本

ぼくがうまれた音 (日本傑作絵本シリーズ)

『ぼくがうまれた音』 近藤等則/著  智内兄助(ちないきょうすけ)/絵

一度見たら忘れられない絵というのがあるが、智内兄助の絵もその一つではないだろうか。

と言っても、私は実物を見たことは無い。

はじめて名前と絵が一致したのは、久世光彦の『早く昔になればいい』の表紙だったと思う。

赤い着物を着た少女の絵。

早く昔になればいい (新潮文庫)

禍々しいほどの強烈なエロスを発していて、本に出てくる狂女「しーちゃん」そのものといった感じの絵。

一連の少女(智内氏の長女)を描いた絵は、独特の恐怖や狂気を孕んでいるので、ホラーやミステリー系の表紙に多く使われている。

ドールズ (角川文庫)   死国 (角川文庫)

実のことろ、この手の感じはこのごろ苦手になった。

こういう形で表現された少女や子供の絵を、作品としてゆっくり咀嚼するだけの気力も体力も無いような気がする。

いや、現実に娘がいる自分としては、少女の内にある残酷さや毒気やエロスといったものを、出来れば見たくない。というのが本音かもしれないが。

‥何だかんだと言いつつ、やっぱり心に引っかかっているのか。

先日、コミュニティセンターの図書室へ行ったとき、新着本コーナーの絵本を見て驚いた。

絵を手がけているのは智内氏ではないか。

「絵本? 子供が見て恐くないの?」と思いつつページをめくった。

う~ん、これはスゴイ! 

確かにちょっと不気味なところもあるが、後ろ向きな陰気さやグロテスクさは無い。

様々なイメージのコラージュが、幼かったころの胸騒ぎでワクワクするような世界にぴったりだ。

凝った技法のユニークな画面は、好奇心いっぱいの少年の心そのもの、といった感じ。

文を書いたのは世界的なトランペット奏者、近藤等則氏という方。

智内氏とは愛媛の同郷で、高校までずっと同窓生だったというのも驚いた。

近藤氏の記憶に残る音が文字になる‥赤ん坊のときに聞いた来島の渦潮の音、造船所の音、そして同じ音を聞いたであろう智内氏が絵を描く。

面白くないわけが無い。

一番好きだったところは カンの虫がいるといわれ、おばあさんにお灸をすえられるところ。

トシノリ少年の熱い、泣きたい、気持ちいいがミックスされた顔の表情が絶妙!

熱くなった皮膚は鉄バサミで冷やしてくれるのだそうで、

「モクモク ヒャーン モクヒャン ヒャーン」 と書かれていた。

どんな音なのだろう? 心にキュッ冷たく響きそう。

いぶされたのか、画面には百鬼夜行よろしくユーモラスな悪鬼たちの登場だ。

このまま退散してやってくれ、と思ったり。

私はたまたま出会ったけれど、「見かけたら必ず開いてみて。」と言いたくなる絵本だ。

スゴイ絵本” に対して1件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >於兎音さん
    20年来とは筋金入りですね。
    そういえば、於兎音さんの日記の中で智内さんの作品をご覧になった、というのを読んだような‥。

    愛媛県美術館で4月末くらいから展覧会があるのですが、関東へ回って来ないかなぁと期待しています。

    おっしゃるように、子供にも本物を見せることは大切ですね。
    大人が怖いと思ったものでも、もしかしたら違った目で捕らえるかもしれませんね。
    あまり先入観を持ってはいけないのかもしれません。

  2. 於兔音 より:

    智内さんの作品は、本当にすごいですね、、、20年来のファンです。子供にも本物は見せるということが大切だと思っています。

  3. kyou2 より:

    >にしおかさん
    お友達の娘さんにはロバート・サブダの方がうれしいかも(笑

    絵本に書かれている故郷の自然の豊かさ、身近な人の温かさを感じました。
    美しい海があり、渦潮がある。そういう力強い自然のあるところに産まれるって素晴らしいことだなぁとおもいました。

    『夜市』はマイミクさんの一人が感想を書いていらっしゃったのを読んで、是非読みたい!と思いました。
    知らない本を読むのは知らない世界を体験できるよう。ネットをやっていてよかったと思う瞬間ですね。

  4. にしおか より:

    毎回帰省の際、友達の娘(今年小学2年生)に、ロバート・サブダの飛び出す絵本を持っていってましたが、今度のGWはコレにします。「要らない!」って泣いたら持って帰って自分のもんにします。前回の「夜市」もそうでしたが、今回も良い本教えていただきました!

  5. kyou2 より:

    >みちこさん
    大人が好むものと、子供が好むものでは違いがあるのかもしれませんね。
    親が着せたい服と、子供が着たい服が違うように。

    >この世界自体が、ひどく怖いものであることを、子どもは敏感に感じ取っている。だから、常に、安心感を与えてくれるものが必要なんですよね。
    なるほどね。そういう考え方もありますね。
    ある程度大きくなってからの話ですが、漠然とした怖いものに形を与えてくれる「絵」というのも、一つの安心ではないかと言う気もします。

    >絶対音感があるせいで、生活音が全て擬音化されてしまうんでしょうね。
    そうですか、ご存知なんですね。私は全然この方を存じ上げなくて。音楽関係には疎くって。って別にそれに限りませんが(笑

  6. kyou2 より:

    >monksiiruさん
    >子供にトラウマ与えそうな画風‥
    そうですよね。ちょっとそんな感じあります。
    大人が見るのだったらいいけれど、もし自分の子供が小さかったら、見せないかなぁ(笑
    久世さんのエッセイに、小さいときらモローのを見て育った子と、モネの絵を見て育った子では感性が違うのではないか、というような文章があったと思います。

    おっしゃるように、純粋さと残酷性感じます。確かに「怖い絵」のメンバーになれますね。
    絵本には残酷な絵はありません。凄いテクニックで作品集みたいに見てしまいました。

  7. みちこ より:

    大人が読む絵本という雰囲気ですね。子どもはやはり、メルヘンぽい絵に安心感を感じますよ。私も、子どものころ読んだ本の挿絵は、怖いものは覚えているし、物語自体もその絵と結びついてしまうんですよね。大人になってみればそうでもなくとも、子どもにはひどく怖く感じるものです。だから、芸術性の高い挿絵は大の苦手でした。ごく普通に描いてくれればいいのに、と思ってましたよ。この世界自体が、ひどく怖いものであることを、子どもは敏感に感じ取っている。だから、常に、安心感を与えてくれるものが必要なんですよね。ぬいぐるみであったり、仲の良い両親であったり、楽しい冒険小説であったり。
    近藤氏は、有名な方ですが、きちんと演奏を聞いたことは一度も無いんです。新体道なんかもされていたような?きっと、絶対音感があるせいで、生活音が全て擬音化されてしまうんでしょうね。

  8. monksiiru より:

    こんな絵本があるのですか。図書館に行って探して見ます。
    しかし、子供にトラウマ与えそうな画風でもあるような気もしなくはないですが・・・
    智内兄助の名前も恥ずかしながらkyou2さんの紹介文を見てあの絵の人かと繋がりました。書店の棚にこの人の描いた本が平積みにつんであると強烈な印象を残してくれますよね。
    少女を描いているのですが人形のような雰囲気。ハンスベルメールと同じような背中合わせの純粋さと残酷性を絵から感じるからなのでしょうか。生き人形みたいですよね。怖い絵に入れそうです。

    kyou2さんはホント本探しがお上手でいつも感心してしまいます。

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