クリヴェッリの俤-2

女教皇ヨハンナ (上)女教皇ヨハンナ (下)

『女教皇ヨハンナ』上下 ドナ・W・クロス著/阪田由美子訳 草思社

9世紀、混迷するヨーロッパのフランク王国で、一人の女の子・ヨハンナが生まれた。

女性の地位は低く、女性が学問をすることなど考えられない時代だった。

聖職者である父親は、ヨハンナの優れた知性と学問への欲求を、女であるが故に全く認めようとしなかった。

しかし、彼女はけして諦めなかった。そしてヨハンナではなく、ヨハネス・アングリクス、男として生きる道を選んだ。

男装のヨハンナは世の中を欺きながら、聖職者として学問を深めていき、ついに彼女はキリスト教最高の位まで上りつめてしまった。

教皇ヨハネス・アングリクス、女教皇ヨハンナの誕生だ。

後に衝撃的な事件によって、教皇の正体が白日のもとに晒されることになるとは、誰が想像しえただろう‥‥

ヨハンナは実在したのか、しないのか。伝説なのか史実なのか。

ヴァチカンは当然女性教皇の存在を認めてはいない。

あとがきで著者は、カトリックが徹底的にヨハンナに関する文書を処分するまでは、ヨハンナの存在は広く認められていたこと、ヨハンナ以降教皇が男性であるかを調べる為の検査がおこなわれていたこと、ヨハンナの悲劇が起きた道を教皇行列は敬遠するようになったこと、などを挙げヴァチカンの否定に疑問をなげかけている。

虐げられていた女の子から、キリスト教世界の最高地位へ。

異教徒である母の影響、チャンスを逃さない勇気と決断力、良き師との出会い。

残虐な戦争、宗教や信仰の深い溝、腐敗する教皇庁でのサバイバル、‥‥育まれてきた密かな愛などなど盛り沢山。

一言でいえば、女の波乱万丈、立身出世の物語。単純だけどドラマチックな内容で世界的ベストセラーになったそうで、帯には映画化の文字も見えるが‥‥。

現代においても、別に男装しているわけじゃないが、同じように孤軍奮闘している女性は多いのでは、と思った。

能力の差と性差とが混同され男性女性どちらかが有利になったら、不利になった人はその性を愛せないし、差別を生んだ社会の仕組みも憎むことになる。

多くの女性が、自己否定をしなければならないような社会では、人間の希望ある発展は望めないだろう。

ウィキペディアで面白いものを見つけた。

タロットカードのことはよく知らないが、「女教皇」というカードがあるらしい。

ふ~ん、ヨハンナがモチーフなんだ。

正位置が知性で、逆位置が激情というのもヨハンナらしくて納得。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E6%95%99%E7%9A%87

「女教皇ヨハンナ」についてはこちら。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E6%95%99%E7%9A%87%E3%83%A8%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%8A

先日読んだ『半身』に続き、こちらもクリヴェッリが表紙になっている。

左はアレクサンドリアの聖カタリナ

王家の生まれで大変な博識、ローマ皇帝が信仰を打ち崩すべく50人の哲学者を仕掛けるが、逆にこれを論破、皇帝の怒りを買い拷問にかけられ、最後は斬首。マグダラのマリアに匹敵する人気の聖女。

右は聖ペテロと聖ドミニクス(カメリーノ三連祭壇画部分)

ペテロの持つ鍵は立体を貼り付けたものとの事。(カルロ・クリヴェッリ画集 吉澤京子 トレヴィルより)

クリヴェッリの俤-2” に対して2件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    流石、この手の事はご存知ですね~。

    >何故、どういう気持ちから、ヨハンナは、教皇になったのだろう?
    ヨハンナはどう思っていたのかは分かりませんが、純粋に学問を究めていって得た地位、恵まれない立場にいる人たちの為にその力を使いたい、というような正義感かと思いますね。
    それと一番は、成り行きというか引くに引けなくなっちゃった。だって能力があって人に薦められて断る理由が無いでしょ。

    まあそんな中でも、一人の男性をずっと思い続けているっていう、男女の葛藤もしっかり描かれています。
    けして女を捨てた人じゃなかったところが、伝説?になるほど人気があったということでしょうね。

    >実は、イタリア人のホモのデザイナー兄弟が、たった二人で製作しています。
    それは初耳、面白いですね。クリエイティブな仕事をする方って、そういう方が多いですね。
    例の検査は、16世紀まで続いたって書いてありましたよ。
    ヨハンナは9世紀のこと、これが原因だとしたら結構続いたことになる、相当強烈なショックだったんでしょうね(笑

  2. みちこ より:

    女教皇の事は、タロットカード教室で、わたしも始めて知りました。おっしゃるとおり、あのカードのモデルは、ヨハンナと言われています。カトリックに抹殺された女性を、民衆は決して忘れず、そのために、カードに残したのだという話でした。
    何故、どういう気持ちから、ヨハンナは、教皇になったのだろう?というのが、私の思うところです。
    今の教皇ほど、ヴァチカンが勢力を持っていなかった時代ですが、それでも、男性しか認められないその世界で、一体何を目的として?ただの権勢欲なのか、お気楽トンボなのか。。。
    それとも、男性優位主義のカトリックに、風穴を開けようとしたのか。。。
    なんでも、真ん中に穴の開いた椅子に教皇候補を座らせて、下から覗いて確認する方法だそうですが、今もそれをやっているとしたら、ちょっと笑ってしまいますね。それともDNA検査かな?
    ローマ教皇は、非常に独特な衣装を身に付けますでしょう?あれって、実は、イタリア人のホモのデザイナー兄弟が、たった二人で製作しています。気軽な感じで、「生地はね~。こんな安いのを買ってきて使ったりするんだよ~」みたいに、二人が話しているのを見ました。
    えっ? カトリックは男色を認めていないはずなのに、ホモの兄弟に作らせちゃっていいの?と、非常に不思議に思いました。
    あれって、どういう関係なのかなあ。ヨハンナくらいミステリー。

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