しばし魔道に入る
『アルマンの奴隷』 赤江瀑 (文芸春秋)
『月迷宮』 赤江瀑 (徳間書店)
なんだか、マジなことを考えるのも疲れていたし、たまたま赤江爆の本が目に付いたので、おっ久しぶり~とばかり読んでみた。
語弊を承知で言うと、ちょっとバカげているほど耽美で、隠微で、男色で、粘着質で、リアリティのかけらも無くて、だから安心して読めるのだ。
出てくるのは美しい男、強かな女、嫉妬、残酷、愛だの恋だの、月、狂気、美意識、海、音楽、虚飾、妄執、上流階級、芸事、師弟関係、あやかし、殺人‥‥。
どちらも短編集で、二冊の間にはかなり年月があるにもかかわらず、どちらも同じような話。一貫して赤江ワールドなのだ。
でも先に書かれた『アルマンの奴隷』の方が、鋭角な美しさがあって良かったかな。『月迷宮』の方はスタイルを踏襲しただけで甘く、どうもヌルイ感じがしたような。
読んでいて、これもまたか‥‥と思ったのは、何かしら執着があって、それをずっと何十年も持ち続けるという話。
恐いなと思うのは、妄執がその人の人格を食ってしまうこと。
そうなったら、人でなく鬼になるのだなぁ、と。
人を忘れるまではいかなくとも、我を忘れて、人は人を好きになるのだろう。
小説では人を忘れた人たちが、妖しく美しく蠢いているのだけれど‥‥。
以下は全て「アルマンの奴隷」収録。
「破浪神(フィギュア・ヘッド)の夢」 船の先端につける飾り(フィギュア・ヘッド)と暗い海原と孤独な青年。それらが圧倒的なイメージで迫ってきてこれは好きだ。
「百魔」「忍夜恋曲者」 どちらも付喪神のような話。ねっとりとした京言葉の「百魔」が面白かった。
「影の訪れ」 人の恨みの凄まじさに辟易。著者にかかると男も女も執念深いが、女の方が、かつ図太いようだ。
“しばし魔道に入る” に対して8件のコメントがあります。
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>羊男さん
>モチーフは文学的なのに、内容は三文作家風で書き飛ばして、たまに傑作を書くといった感じでしょうか。
正にそのとおりですね。
あまりに厳しく美しすぎると疲れます。ほど良く休める感じが良いのかもしれません。
なにも頭を抱えて悩むばかりが、本を読む目的じゃないですからね。
でも、器用に時代に迎合せずに自分のスタイルを貫く赤江ワールドも凄いことだと思います。
世の中には埋もれてしまう大衆作家がたくさんいますけど、赤江瀑もそんな感じの境界線的な作家ですね。
耽美的だけど通俗的で、でも芥川賞とか直木賞とかいった普通の範疇にはいない作家。
なんとなく新宿三丁目的というかスポーツ新聞に載るようなポルノ小説的というか。
モチーフは文学的なのに、内容は三文作家風で書き飛ばして、たまに傑作を書くといった感じでしょうか。
昔は角川文庫からけっこう出ていたのに、いまは名前もあまり
聞かなくなりましたね。
>高人(タカト)さん
>やはり年月を経た果てに、自己模倣に陥ってしまっているのでしょうか。
そうですね。私は生意気にも、そういう感じを受けました。
赤江瀑って、塚本作品のような峻厳さはないけれど、通俗的な魅力
がありますね。
なんだか、面倒なことに疲れたので、ふと読みたくなりました。それで楽しかったです。
皆川博子は少し前に『みだら英泉』を読みました。浮世絵が好きなもので。
昨日、遅まきながら「エディプスの刃」を入手しまして、読もうかなと思っていたところなので、ちょっと吃驚しました。
大昔に「野ざらし百鬼行」という短編集を読んだきりだったのです。
三島と塚本邦雄の世界をミックスしたような印象を持ったのでした。
ある種の「やおい」のような感じですね。
私は、その後違う分野に関心が移り、文芸の方へ戻ってきた時、惹かれたのが皆川博子でした。
どちらかといえば、皆川が好みかも知れませんが、紹介のあった「アルマンの奴隷」は読んでみたいような気がします。
やはり年月を経た果てに、自己模倣に陥ってしまっているのでしょうか。
>monksiiruさん
ネット予約は便利ですね。横浜市でもやってますよ。
赤江瀑は「オイディプスの刃」というのを最初に読みました。男兄弟と名刀と香水の、これまた濃厚華麗な世界でした。
こういうの好きな人は好きだけれど、ダメな人はダメですよね(笑
どうぞ、心地よくトリップできますように‥‥
実は私も赤江瀑さんのお名前をこちらで初めて知りました。
kyou2さんの紹介を読んでいて読みたくなり図書館に予約してきました。今はネット予約なので興味を持った本の蔵書確認が出来るのが便利でありがたいです。
年末の忙しい時期を現実逃避できそうな気がして楽しみです。
現実からトリップするにはリアリティから極めて遠いくらいのストーリーが一番の処方箋ですよね。
ご紹介ありがとうございました。
>みちこさん
わわっ、間違えました。波浪神(フィギア・ヘッド)じゃなくて、破波神(フィギュア・ヘッド)でした。すみませんm(_ _)m
ネットで調べたらフィギュアヘッドは船首像となっていたけれど、
破波神は造語でしょうか。このほうがずっといいけれど。
この話では、特定のフィギュアは出てこないんですよ。
>執念とか恨みとか、そんな暇があったら楽しいことすれば?
はは、そうですね。
執念や恨みが生きる原動力になるような人生はイヤですね。
計らずもそうなってしまったら、哀しいけれど。
あかえばく? 初めて知りました。
私がもの知らずなんでしょうが。
船の先端の飾りは、波浪神。この言葉はいいですね。初めて知りましたが、一般的な言葉なのでしょうか?
その波浪神は、よく女性の姿をしていますが、その話のフィギアは何の形ですか?
付喪神のような話、という表現も面白いですね。一体どんなもの?と興味がわきます。
執念とか恨みとか、そんな暇があったら楽しいことすれば?と思ってしまうのは、現代的なんでしょうかね。平安時代の話も、執念で成り立っているのが多いような。。。そのエネルギーがもったいない。。。