栄之が好き

先月「ウィーン美術アカデミー名品展」を見た後で、原宿の太田記念美術館9,10月の展示「歌麿と栄之」を見て来た。

鳥文斎栄之は歌麿と並ぶ美人画の名手。好きな絵師なのに、作品をまとめて見たことがなかったので、今回はとても楽しみして行った。
浮世絵のいいところは、見る人を選んだり、小難しい理屈をこねていないところだ。
きれいな美人だとうっとりさせる、いい風情じゃないかとしみじみさせる、意匠に驚き、機知に感心し、情報も得る。見れば分かるありがたさ。
見る側にはめっぽう優しく、ハードルは低い。けれど作り出す側のハードルは非常に高い。

特に浮世絵版画は絵師、彫師、摺師や版元の共同作業で世に送り出す訳だから、全ての段階においてすこぶるシビアなプロ集団であったのだろう。

     
鳥文斎栄之「青楼芸者撰 いつ花」  鳥文斎栄之「青楼美撰合・初買座敷之図 扇屋滝川」

展示作品ではないけれど、上の二枚は好きな作品。

栄之のすっきりとした品のいい美人は、歌麿の艶っぽさと春信の清清しさを併せ持ったような感じがする。
十頭身はあろうかと思われるスラリとした立ち姿は、英泉とか国貞のちょっと崩れた人間味はないく、生身の女性というより理想の女性像に近い感じ。
どこか凛とした風情は、栄之が浮世絵師には珍しく旗本出身であることも一因となっているのだろう。

同じく武家出身(こちらは下級武士)の太田南畝(蜀山人)とは親交が深かったようだ。今回の展示でも画讃のあるものが何点かあった。
栄之は後年、錦絵から肉筆画に専念したそうで、肉筆浮世絵に素晴らしい作品が多数ある。
版画もいいけれど、やはり絵師が初めから終わりまで精魂込めて描き上げた作品、というのは重みがある。

「胡蝶の夢図」の女性はまさに夢のように儚げだった。「月夜よし よしといへる吉原の 五町に似たり 胡蝶に似たり」の画讃は南畝。絵を縁取る裂に中国趣味の刺繍のあるものが使われていて、華やかだった。

対照的に掛け軸などにさらりと描かれた風俗や風景は、渋く枯れた風情があって、浮世絵師の栄之とは一味も二味も違う味わいがあった。

また「隅田川両岸一覧図」は絵巻で、これがとても面白かった。
隅田川を挟んで上下に集落や町の様子、神社仏閣、何本もの橋が地名・名称入で、墨や淡彩で描かれたもので、江戸が水の都であった様子がしのばれた。
今戸辺りでは、今土焼きの煙が一筆でシュッと幾筋も描かれていて、それは間違いなく人々が生活していた証のようで、とても印象に残った。

浮世絵 太田記念美術館

http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/index.html

 

<備忘録>

見たい浮世絵の展覧会が二つ。

・江戸東京博物館  ボストン美術館所蔵 肉筆浮世絵展「江戸の誘惑」

肉筆画の名品が多数里帰りしている。栄之の作品も来ている。これは絶対に行きたいが。

・ららぽーと豊洲 UKIYO-e TOKYO  “にゃんとも猫だらけ”えどのねこ展 

著名な浮世絵コレクターの平木財団所蔵の浮世絵を常設展示する浮世絵美術館が開館したそう。
国芳の猫を中心とした展示のようだ。話題のスポットだし、ほとぼりが冷めてから行く美術館かなぁ。

栄之が好き” に対して4件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >monksiiruさん
    そうなんです、控えめで渋い色がとてもいいですよね。
    雰囲気は歌麿の艶っぽさと、春信の清清しさを足して二で割ったような感じでしょうか。

    展覧会、作品との出会いは縁ですね。

  2. monksiiru より:

    kyou2さん、こんにちは。
    太田記念美術館に行こう行こうと思いつつなぜか原宿に赴くときが展示入れ替えの月末にぶつかったりしている私です。
    鳥文斎栄之の十頭身の美人画は細腰のフォルムがたおやかな雰囲気を出していい雰囲気ですね。抑え目な色もまた味わいがあります。
    ホント、展覧会が目白押しでここでは11月.12月と「英山と英泉」がありますよね。

    ららぽーと豊洲の国芳の猫つくしはかなり混んでいそうな予感です。私もほとぼりが冷めてから行こうと計画修正をしました。
    「江戸の誘惑」はJRでポスター見ましたが豪華そうですね。こっちもいけるかどうか・・・ああ身体が二つほしいと思います。

  3. kyou2 より:

    >みちこさん
    ハードル低いっていうと、語弊がありますよね。
    あとで思ったのですが、何の予備知識なくても理解できるのは当時の人たちで、今の私には理解できない情報も浮世絵の中に沢山読み込まれていますからね。
    描かれている女性も、当時なら誰でも知っていた「何とか屋の誰々」といわれても、今の私には予備知識として入っていなければピンとこないし、描かれている風俗やしぐさも意味が分かっていると、より理解も出来るし、楽しむこともできる。
    やっぱり、どんなものでもその人の段階によって理解の深さ、味わいの深さも違ってくるので、一概にハードルが低いといったのは浅はかでしたね。

    >着物は体全体を覆ってしまうから、
    そうですよね。だから日本女性に求められていたものって、圧倒的に顔の美しさですよね。身体は芯でよかったわけだから。

    着物検定ですか、実際、着物って着る機会ないですね~。
    箪笥の肥やしです。考えてみると親の葬式と七五三の3回だけしか着ていないかも。

    HPのトップ教えてくださってありがとう。ブログで書き始めてからしょっちゅう忘れてしまいます(反省

  4. みちこ より:

    浮世絵は、見る側のハードルの低いものなんですか。。。
    そういう目で見ると、上の2枚は、着物!という感じです。
    着物は体全体を覆ってしまうから、かなりの部分、着物で人間の印象が決まっていたんでしょうね。馬子にも衣装というのは実感であって、着るもので全然違う印象になったんでしょう。
    あとは、顔と手足が白いか黒いかで、育ちが決まった?
    全然関係ないですが、個人的に、男性の色白は苦手だったんですが、最近、やはり健康な人は色白だなあ、と見直すようになりました。あっ、ほんと~に関係ない話ですね。。。
    ついでに余計なお世話ですが、トップページの日付は更新に合わせておいたほうが良いですよ。日付が古いと気付かないんです。
    着物検定に予想をはるかに上回る人が集まったそうですし、着物って、世界一不思議な服ですよね。

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