極彩色の悦楽 ~ 若冲
先週、三の丸尚蔵館「花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に>」へ行ってきた。
憧れの人に初めて会うような高揚感は久しぶり。伊藤若冲の「動植綵絵」が見られる!もうドキドキだった。
若冲は裕福な青物問屋の長男として生まれたが、商いや俗事に興味がなく、あまつさえ丹波の山奥に2年ほど隠れていた事もあるという人物。40歳で弟に家督を譲り、死ぬまで好きな絵を描き続ける絵三昧の生活をした。
もとより生活する為に絵を売る必要はなく、高価な絵の具、最高の材料で好きなものを描くことができた。
狩野派、中国絵画をも習得し、さらに模倣でなく独自の絵画を追求し極めた若冲。
究極のアマチュアリズムともいえるのではないだろうか。
「動植綵絵」は京都・相国寺に、同じく若冲が描いた「釈迦三尊像」の荘厳画として全30幅を描き加え寄進したものだ。
今回の公開は、平成11年から6年にわたった「動植綵絵」の修復が終わり、美しくよみがえった作品と、修復作業の過程で明らかになったことなどを、他の優れた花鳥画、博物誌と共に紹介するもの。
期間も実に3月25日から9月10日までという長丁場。第1期から第5期まで作品の入れ替えがあり「動植綵絵」30幅も6幅づづの展示となる。
三の丸尚蔵館は実に小ぢんまりとしており、若冲の6幅をあわせても15作品くらいしかなかった。
「動植綵絵」はガラスケースにおさめられ、右から
「芍薬群蝶図」「老松白鶏図」「南天雄鶏図」「雪中錦鶏図」「牡丹小禽図」「芦雁図」の順で並んでいた。
6幅ならんでいると壮観。圧倒的なパワーにタジタジだ。
描写は一見写実的だが、写実を踏まえたうえで充分デザイン化、パターン化されているというのがとても印象的だった。
どの絵の形と色をみても、それは「若冲の形と色」に昇華されているようだ。
現実の再現ではなく、若冲によって再構築された正に若冲ワールド、上機嫌な極楽図のようでもあり、シュールレアリズムの絵画を見ているようでもあった。
好きなのは「南天雄鶏図」と「牡丹小禽図」
「南天雄鶏図」
南天の赤と、雄鶏の黒がつくるコントラストは凄絶な美しさがあった。
降り注ぐような南天の赤に対して、どうだ!といわんばかりの立ちはだかる雄鶏のポーズは、まるで見得を切っているよう。下方に働く力をグット持ち上げているようで力強い。
また赤と黒の背面に、白を差しいれて色がより鮮明にみえる。
大小の茶色いしみ二つ(病葉の表現)を配した葉が、パターン化されて描かれているのがとても面白かった。
「牡丹小禽図」
画面一杯に白い牡丹が描かれ、その間から赤い牡丹が見え隠れする。
その配置の妙、鮮やかさに惚れ惚れした。さらにその間を小手毬の細かな花が埋め、描写は精緻を尽くす。
小鳥は花に紛れてしまいそうなくらいだが、白い頭と黒い羽で存在をアピールしている。
青く苔むす老木(?)は背景と渾然一体となって、最早私にはその構造がよく分らない。
正にどこにもない若冲だけの空間に、息苦しささえ覚えるようだった。
今回の修復で一番の成果は、「裏彩色(うらざいしき)」という手法が使われていたことを、実際に確かめられたことのようだ。
絹に描かれた絵に対して施すもので、裏側も彩色することによって、顔料を挟み込むことで補強、絹目を通して透けて見えることによって、鮮やかな発色とより複雑な色重ねの効果が得られるものだ。
また、すぐ裏に張る「肌裏」が通常より暗く墨色であること、背景の部分も裏彩色されていることで、より深い奥行きと複雑なニュアンスを作り出していることも指摘されていた。
「動植綵絵」の不思議な空間の秘密を明かす興味深いものだ。
若冲の絵の前に立つと、立ち去りがたい吸引力があって見続けてしまうのだが、こちらは精気をぬきとられてしまって、ぐったり疲れてしまった。
今はもう第2期が始まっている。
GWあけにでも行ってみようと思っている。7月には「プライスコレクション」でも若冲が見られる。続々登場、なんと幸せなことか。
そうそう、この頃絵を見るときに「ギャラリー・スコープ」を持っていく。
歳のせい?か、細かいところが以前に比べよく見えない。作品との距離があるときは大変助かる。
細かなところばかり見ていても、ショウガナイことは承知だが、細部も見たいものである。
「藤田嗣治展」の時も、肉眼でははっきりしなかった裸婦の「まつげ」まで、くっきりと見え、画家の息づかいが感じられるようだった・・・。
コンパクトで邪魔にならないから、結構気に入っている。
「三の丸尚蔵館第40回展開催要領」
http://www.kunaicho.go.jp/11/d11-05-06.html
「若冲と江戸絵画」展コレクションブログ
“極彩色の悦楽 ~ 若冲” に対して2件のコメントがあります。
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>みちこさん
>よく、漫画の元なんて言い方をされていますが、日本の漫画家は、デッサン力のある人が実に多いですよね。
「鳥獣戯画」以前に見たことあります。面白いですよね。
ちょっと前のブログでも描いたのですが、線描で動きのある生き生きとした描写の絵巻物、アニメのルーツですよね。
今、世界的にも評価が高くって、通用しているのって、ファインアートより絵巻物の流れを汲んだ「アニメ」の方みたいに見えますね。
女の子が描く、可愛い女の子のマンガって、鼻を小さく「く」の字に描くじゃないですか、あれって源氏物語絵巻の引目鉤鼻といっしょで、(男の子に比べて)女の子ほど小さく描くそうですよ。
こんにちは~
kyouさんの好きなコレクションが多いようで、結構ですねえ。
写実を踏まえて、若冲ワールドに再構築されているのですか。鳥獣戯画をふと思い出しました。NHKでやってたのですが、ウサギの毛並み一つとっても、動物の毛の流れが、体のどの部分でどっちに向かっているかを、あの作者は実に良く知っているとのことでした。
あれは、まあ、よく、漫画の元なんて言い方をされていますが、日本の漫画家は、デッサン力のある人が実に多いですよね。現実と想像のバランスがあれほどいいのは、世界では日本の漫画だけなんでしょうか。
秋葉の世界がイタリアの美術界に紹介されて興奮を呼んだ、などとニュースで見ましたが、きっと、日本人の独特な才能なのかもしれ無いなあ、と思ってしまいました。
あれ?全然関係なかったらごめんね。
それでは、他のコレクションの感想も楽しみにしていますね~。