誕生の輝き

先週、五島美術館に「よみがえる源氏物語絵巻」展を見に行った。

平日の雨だったというのに、かなりの混みよう。相変わらず「源氏」は人気が高い。

建物や絵画の保存について、現状維持か当初の状態に戻すかは、しばしば熱い議論のあるところ。

模写は現状模写と復元模写がある。今回の企画展は、平成11年から17年に渡って行われた一大「復元模写プロジェクト」の完成を受けて実現したものだ。

このプロジェクトの過程はNHKで何回か放送された。私も去年の秋、番組で目にした「鈴虫」の復元模写の美しさに驚嘆した。

科学技術の進歩と学術的調査によって不明だった点が明らかになり、復元の精度が格段にアップした。

原画の古色を帯びた状態、侘びの風情から遠く「誕生の輝き」を想像するのは鑑賞の一つの方法だ。

一方、復元された「誕生の輝き」からは、この絵巻を初めて目にした平安の人たちと同じ新鮮な歓び、作者の存在を感じることが出来るだろう。

絵巻の何点かは、別の展覧会で見たことがあったが、こうして現存する19図全てがそろって、しかも復元されて形で見ることが出来るとは、本当に嬉しいこと。

いくつか印象に残ったものを・・・

「蓬生」 廃屋同然となった邸に末摘花を訪ねる図。

原画では見ることが出来ない庭の雑草が、明るい地面に緑の濃淡でそこかしこに描かれている。野趣のある風情は源氏と案内役の惟光の雅な姿と好対照、実に美しい。

荒んだ邸に正に「光」が到来し、末摘花の幸運の兆しとなっているのだ。

「鈴虫」 秋の草花が揺れ、水の流れも清清しい庭、若い尼君が可憐な横向き姿で描かれている。源氏その人は、僅かに見える衣で表されているのみ。

(私はこの横向きの人物が女三の宮に思える・・・。奥にもう一人描かれているが、その人物も女三の宮だと断定は出来ないようだ。)

今回の展示では、平成の復元模写とともに、昭和30年代になされた復元模写も隣りあわせで見ることが出来る。昭和の復元では推測不可能だった数々が、今回で解明されているという事が一目で分る趣向だ。「鈴虫」においても、昭和のものは女三の宮の衣に文様はない。

おしなべて、昭和の模写は硬い感じがした。

本当はどちらがより近い感じなのかそれは分らないが、平成のものの方が繊細で優雅。

原画に分らない部分があるとすれば、模写もその時代を反映しているものなのかも知れないと思った。

今回の模写は複数の画家によって制作されていたが、特に加藤純子氏が素晴らしいと思った。   

衣装の、上の衣から下の衣が透けて見える感じが、他の画家に比べて断然際立っているように感じた。白い衣の表現にそれが顕著に現れているようで、微妙で優しく、高貴な印象を受けた。

模写であるから、過度な個性は出せるはずもないけれど、熟練の技術だけではない精神的にピリリとした、『源氏物語』の本質を掴もうとする意識の高さを感じた。

古色をそのままに写した現状模写(剥落模写)もあり、大変興味深かった。

「五島美術館」

http://www.gotoh-museum.or.jp/tenrankai/index.html