ヴァザーリの功績(1)

ルネサンス画人伝

『ルネサンス画人伝』 ジョルジョ・ヴァザーリ著/平川祐弘・小谷年司・田中英道訳 (白水社)

ルネサンスの芸術家について書かれた本に、しばしばお目見えする"ヴァザーリの『画家・彫刻家・建築家列伝』(『美術家列伝』)によると・・・”という記述。

その『列伝』の中で、特に有名な画家を取り上げたのが本書になる。

13世紀のチマブーエに始まり、ジョット、ウッチェロ、マザッチオ、、ピエロ・デラ・フランチェスカ。フラ・アンジェリコ、フィリッポ・リッピ、ベルリーニ、ボッティチェリ、マンテーニャ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ジョルジョーネ、ラファエロ、ミケランジェロ、最後は16世紀のティツィアーノ。

この本が出されたのが1550年、ヴァザーリも画家であり建築家であるから、同じ時代を生きた同業者についても書いているわけだ。

特にミケランジェロと親交があり(彼はこれが大変誇りであり自慢)、しかもミケランジェロを他の画家と比べ別格の存在、ギリシア・ローマをも凌駕する「芸術の頂点」として捉えているのが印象的だった。

また、文章があまり堅苦しくなくいのがいい。厚い本だし、何しろ古い本なのでついつい敬遠していたが、それぞれの画家のエピソートはどれも面白く、一人の画家の記述はあまり長くないので(これまたミケランジェロについては別格で何倍も長い)テンポよく読むことが出来る。

『列伝』は不正確な部分、手前勝手な部分も多々あるとのことだが、それを差し引いても、これだけ多くの芸術家の記録を後世に残した功績はとても大きい。

私達が知っているルネサンスの画家のエピソードや性格についても、多くはこの『列伝』の記述であることが改めて分った。

「ティツィアーノ」から

ある日、ミケランジェロとヴァザーリが連れ立ってヴェルデベーレにティツィアーノを訪ねたときのこと。

描き上げたばかりの金の雨に化けたゼウスがダナエを訪ねる絵を見て、二人は人前ではいつもそうするようにその絵を褒めた。

しかし、彼の家を辞した後でミケランジェロはこう言った・・

「ティツィアーノの色彩も様式も私の気にいったが、しかしヴェネツィアでは、先ず最初にデッサンをよく学ぶということをしない。これは残念なことだ。ヴェネツィアの画家たちは勉強の仕方をもっと改善することもできように、その点が惜しまれる。もしあの男が、あれだけ天賦の才があるのだから、技術を磨きデッサンで進歩したら、特に実物を描写する訓練をしたら、もう匹敵する男はいないであろう。ティツィアーノは実に美しい精神の持ち主だし、実に愛らしく溌剌とした様式をもっている。」  (P364)

ヴァザーリはミケランジェロの崇拝者でマニエリスト、素描(disegno)を基本に主観的な要素を取り込み、総合的に高められた優美なる様式(bella maniera)を理想としている。ミケランジェロの言葉も

それに沿ったものだといえる。

その他、突出した才能のマザッチオの「貢の銭」(カルミネ寺、ブランカッチ礼拝堂)をミケランジェロ、レオナルド、ラファエロ、ギルランダイオ、ボッティチェリetc全ての画学生はこの絵から学び、27,8歳で突然亡くなったことは毒殺以外には無いとする人も多いということ、またヴァザーリのころから天才の誉れ高いレオナルド、例の手稿の記述もあり、11月にその何点かを実際に見ることが出来た私は、とりわけ感慨深かった。

『画家・彫刻家・建築家列伝』の訳として本書に続き、『続ルネサンス画人伝』『ルネサンス彫刻家建築家列伝』も出ている。