鮮やかな老境
先週「北斎展」に行ってきた。平日にもかかわらず大変な混みようで、久しぶりに人垣が気になる展覧会だった。
作品総数は500点近く、入れ替えで若干展示点数は少ないだろうが、それでも3時間を越える鑑賞になった。
流石にソファで休み休み。諦めモードで焦らないようにしたが、ヘトヘトに疲れた。
「入館制限、待ち時間あり」の情報もあって、覚悟はしていたけど、それが無かっただけマシだったのかも・・・。
と贅沢な文句を言ったものの、圧倒的な見応えで満足できた。
特に、肉筆画はこれほど沢山見たことがなかったので、版画とは一味も二味も違う魅力を堪能した。
草虫画で、若冲ばりの精緻さを見せたと思えば、筆さばきも大胆な水墨画の要領で美人画を描く。
鯉と亀を描いた一枚は、どこかメタリックな質感でとてもユニーク、現代的な感じがした。
北斎の版画の美人画は、それ程好きじゃなかったけれど、肉筆の美人画はとてもよかった。
上の画像の「酔余美人図」も艶やかな風情に惹きこまれた。
酔った頭を支える白い右手、それをまた左手で二重に支えているところに、酔いの深さが感じられるようだ。
繊細な白い手と顔、うなじに比べ肩から腰までのズド~ンとしたところも重量感があっていい。
他の美人画も、どこかずしっと存在感のある立ち姿の女性像が印象的だった。
あと、目を惹いたのが「若衆」を描いた二作。
女性のように前髪がある若衆髷(だと思う)で、一方は、帯刀して床机に座り、細い縦じまの袴に白いたびが清清しい。
もう一方は、恋文の文言を錬っている。思案顔に添える手はやや太くしっかりしているが、二人ともなんとも美しい。
色気と凛々しさ、若々しさに満ちていて、生身の人間はどういう人だったのだろうかと想像してしまう。
この二作が「画狂老人卍」を画号としていた81歳の時に描かれたとは、本当に畏れ入る。
画号と住居をめまぐるしく変えたように、描く対象、手法、テーマが変化に富んでいて実に多彩だ。
次々に新しいスタイルを生み出し、また同時に複数のスタイルでも描く。
と言うか、描きたいものを描きたいように描いている融通無碍な天才なのだ。
出来ればもう一度ゆっくり見てみたかった。
「北斎展」
http://www.hokusaiten.jp/index_jp.html