不運

幸福な朝食 (新潮文庫)

『幸福な朝食』 乃南アサ (新潮文庫)

世の中にはつくづく不運な人がいるものだ。

主人公の沼田志穂子は、有名な美少女で、本人も女優になることを夢見ていた。

ところが、彼女が高校のとき、突然彼女と瓜二つの美少女がブラウン管に登場し、瞬く間にアイドルスターになってしまった。

それでも女優への思いが断ち切れず上京するが、同じ顔のアイドルは一人で充分だった。

彼女は、自分がそうなったであろう立場のアイドルを、忸怩たる思いでずっと見てきた。

今、孤独と挫折の中で30代半ばを向かえ、若さも美しさも失われていく中、彼女は徐々に壊れていく・・・。

人はだれでも、もしあの時ああだったら、今は全然違った人生だったのに。と思うことがあるように思う。

人生の岐路に立った時の、悩んだ末の選択だったり、あるいは偶然の出来事だったり。

幸福な人、現在の自分をある程度愛せる人は、いつまで過去のことにこだわっていてもショウガナイと、前へ進むことができるのかもしれない。

でも、主人公は孤独の中にいてプライドとコンプレックスの狭間で疲弊し、固執し歪んでしまった。

結婚もせず、子供もいないという拠りどころの無さ、自分の思い描くことが何一つ実現できなかったという思いが、常に最初の躓きへと自分を引き戻す。

何回も何回も行きつ戻りつして、彼女に悪意が芽生え、狂気の穴に落ちてしまったのだろう。

どこかで断ち切らなきゃいけなかったのにな。

不運だったかもしれないけれど、だからといってずっと不幸でいるかいないかは、本人次第じゃないかな。

なんだか、淋しい話だな。

乃南アサは心理描写が上手いので、面白くてすらすら読める。だからといって軽いわけではないが。

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