老いの周辺
『地唄・三婆 有吉佐和子作品集』 有吉佐和子(講談社文芸文庫)
収録作品は『地唄』『美っつい庵主さん』『江口の里』『三婆』『孟姜女考』
印象に残ったのは『三婆』
戦時中、広大な庭にいくつも茶室を建造するほどの大金持ちだった武市浩蔵が突然死に、
本妻、妾、実妹の三人が残されることになった。
戦後の混乱の中、お互いに憎みあっていた三人は、庭の茶室に各々移り住むことになった。
当初は波風も立ったが、時間がたつにつれ、曲がりなりにも仲良く暮らしていく・・といった話。
『華岡青洲の妻』と同様『三婆』も、家長制度に対する批判がこめられているように思う。
どちらの作品も、女性同士がいがみ合い、壮絶な競い合いが書かれているが、それも家長あってのこと。
どちらも、絶対的な権力者である家長の存在なしには、競争はありえない。
『三婆』は、結果的には浩蔵が死んだことで、助け合いの共同生活を営むことになるわけだ。
『美っつい庵主さん』も尼寺の女だけの暮らしが描かれており、二作の共通点は興味深いところ。
何故年老いてから一つ屋根の下に住むようになったのか。
単純に一人では暮らすことができなくなって、助けがいるということもあるが、老いからくる心細さ、寂しさ、それと「縁」じゃないだろうか。
他に係累の無い三人にとって、かつて恨んだり憎んだりしたことも昔話の一つ。
それも縁あってのことと考えて、これから生きるのに生きやすい道を選んだのだと思う。
一番印象的だった箇所は、共同生活をしても三人三様ばらばらなことを思ったり、ぽちぽちと好きに行動してるところが描かれているところだ。
まあ、この境地に至るまでの道のりは長かった、ということかもしれないが。
緩やかなまとまりを維持できる社会は理想的だ。
個人と社会は元々相反するものだから、人それぞれ折り合いをつけて、落ち着くところに落ち着くのだろう。
私は今年の3月からホームヘルパーの仕事をしている新米だけど、ヘルパーの仕事をしてつくづく思ったのは、
一人一人に違った歴史があり、個性があるということだ。これはとても重い。
以前は、つい「お年寄り」はああだとか、こうだとか考えがちだった。
でも「お年寄り」という人はいない。みんな何々さん、だ。それは自分自身を考えれば分かることなのにね。
わが身を振り返って、さて、老後一緒に暮らしたいのは誰だろう?
夫かな?気の合う友人と暮らすのも悪くないかな?
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有吉佐和子さんの作品、けっこう好きで以前はよく読んでいました。女性作家の作品て好きなんです。なぜって自分の身体や心で実際に体験したことをそのまま文章にしていて、うそがないように思うからです。男性の場合、わりと観念的になりがちだと思いませんか?
人が歳をとって、以前よりも人間がまるくなる、仲悪かったのがおりあいつけられるようになる、そういうのって読んでいて救われますね。どんどん自分の嫌な性格がこりかたまってわがままになっていく、というのでは歳をとることはただの老醜でしかないものね。そうなりたくないとつくづく思います。