江戸の闇
『鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集』 鳥山石燕 (角川文庫)
鳥山石燕は江戸の絵師、妖怪画を好んで描いた異色の画家だ。
この絵師の名前は、京極夏彦を読んだ方なら先刻ご存知。言わずもがなだけど・・。
「姑獲鳥(うぶめ)の夏」 「魍魎の匣」 「狂骨の夢」 「鉄鼠の檻」「絡新婦(じょろうぐも)の理」 「塗仏の宴」 「陰摩羅鬼(おんもらき)の瑕」
皆、この画集にのっている妖怪を題名にいただいている。
私は京極で初めて石燕を知った次第。
バラバラとめくると、なかなか趣のある妖怪ばかり。読むというより見る本、コンパクトに江戸の妖怪と親しめる。
当時の人々の妖怪変化に対する感覚がとても面白い。
自然の脅威、動物などが今よりずっと身近であったのだろう。さらに、絶対的な身分制度というのも大きな要因だと思う。
管理社会で妖怪という存在だけは、超法規的。妖怪に事寄せれれば上下関係も転覆できる。
現代の学校の怪談しかり。お化け話は、子供たちが管理社会に開けた風穴と思う。
また、夜も明るい現代と違って、本当の闇があったのだろう。家の中でさえ灯りの届かぬ隅には、何かがいそうな余地がある。家の外はいうに及ばずといったところ。
昼と夜は明確に分かれていたのだろう。ここからは危ないぞ、と言う黄昏時が逢魔時と言われたのは自然なことだと思った。
どれも面白かったが、印象に残ったものを。
[入内雀(にゅうないすずめ)] 藤原実方奥州に左遷せらる。その一念雀と化して大内に入り、台盤(だいばん)所の飯(いい)を啄(つい)ばみしとかや。是を入内雀と云。
絵は、髪も乱れた直衣姿の実方が口から、プハーと雀を吐いている図。なかなかアンニュイであります。
[震々(ぶるぶる)] ぶるぶる又ぞゞ神とも臆病神ともいふ。人おそるゝ事あれば、身戦慄してぞつとする事あり。これ此神のえりもとに付きし也。
描かれている妖怪の線もぶるぶると震えていて、面白かった 。
妖怪は恐いけれど、生きている人間が一番恐く攻撃的だと思うこの頃だが。