心は遥かな島へ

コスモポリタンズ (ちくま文庫―モーム・コレクション)

『コスモポリタンズ』 サマセット・モーム著/龍口直太郎訳 (ちくま文庫)

本書は1924年から1929年にかけて『コスモポリタン』誌に連載された掌編29篇と「作者の序文」が収められたもの。

話はモームが訪れた南海の島々、ヨーロッパ、アメリカ、アジアと全世界に及ぶ。

彼の旅先で興味は、美しい風景や名所旧跡ではなく当地の著名人に会うことでもない。

彼が心惹かれて書いた話は皆、そこで出会った必ずしも有名人ではないが、たいへん興味深い人物についてのことだ。

中には、関東大震災前の横浜の一話も含まれていて、グランド・ホテルやそこから眺めが書かれたところなどは、私にとっていっそう面白いものだった。

ゆったりとした船旅(かなり過酷な旅もしばしばだが)は、ノスタルジックな想いとともに、現在では失われたしまったものも多いことに気づかされた。

冒頭の「作者の序文」は、モームのこの掌編集に対する考えを的確に述べもののみならず、著者の小説に対する考えであることが分かる。

また、コスモポリタン誌の掲載条件が、見開き2ページきっかりという厳しさで、大作家モームも苦戦した様子が印象的だった。

あの世界の傑作短編『雨』を残したにも関わらずだ・・

・・その結果、私の発見して驚いたことは、副詞とか形容詞とかいうものは、作品の内容とか表現とかをいささかも損なうことなしに、いかに多くのものを省略できるかということである。私たちは文章にちょっとした調子をそえるというだけの理由で、不必要なことばを書くことがよくある。意味の上では必要のないことばは一語も使わないで文章の調子をとってみることは、なかなかためになる修業であった。 (P10)

必要最小限の文章だが、豊かで品もあり余韻もある。・・だからこの掌編はそんな作品ばかりだ。

モームが人間に向ける目は鋭い。でもそれ以上に、人生を楽しみ人間を愛する気持ちに溢れているように感じた。

文章もそうだが、人も色々な装飾品は、外した方がいいんだなぁ。

外すには勇気がいるし、自信がなければすぐ着けたくなるだろうけど。

外したときに残る芯で勝負しなくちゃね。・・などと思う。