脳の底力、愛の可能性

愛は脳を活性化する (岩波科学ライブラリー (42))

『愛は脳を活性化する』 松本元 (岩波科学ライブラリー42)

「脳」とは一体何なのだろう?

前半は、まず脳とコンピュータとを比較しながら、脳のシステムを定義する。さらに脳型コンピュータを開発することによって、脳それ自体の理解も深まるという相互関係を説く。

興味深かったのは二つ。

一つ目は、脳は価値と認知の二重構造で情報の選択を行っていて、まず最初に大ざっばに価値判断し、その後ゆっくり認知検証していくということ。

情報が入ってきた時、第一次判断で「快・好き」と感じるか「不快・嫌い」と感じるかで脳活性がスムーズに行われるか、行われないか決まるという。

何かを好きだと思うと「~したい」という欲求が湧くし、自然にもっとしたい、知りたいと向上心が生まれて、発展していく。

これとは逆に、「~しなくてはならない」は、本来の「したくない」を再評価して体裁を整えたものと言える。

ふと思うのだが、自分が「これは好きだ」と思っていることも、「しなくてはならない」という気持ちばかりが育ってきたら、それは自分の内部世界の秩序を保たせたいが為に、自分を偽って「好きだ」と思っているだけではないだろうか・・。

既成の内部世界にとらわれて、今の気持ちに素直になれなかったら、それは自分で自分を閉じこめていることになるのではないだろうか・・。

二つ目は、脳研究と脳型コンピュータの研究開発の関係を、鳥研究と飛行機開発に重ねたところ。

脳は「できる」と確信すれば、「できる」方向に向け脳の活性を集中して、できると確信することを実現するように働く。したがって、確信させてくれるものが存在することは、脳にとって、そのものを実現する最も重要な要素なのである。 (P30)

読んでいて、思わず目を留め読み返した。

目的に対し「できる」と確信する。これって相当難しいことだ。

逆に「確信させてくれる存在」を見つけられるか、見つけられないかが、成功の鍵を握っているともいえる。

人生においても、「確信させてくれる人物」との出会いが、その後の人生を決めるのに似ている・・。

後半は前半の脳のシステムを踏まえて、その特性が日常生活にどのように現れているのかを解明している。

一つ一つの事例に、何気なく感じていたこと、行動していたことなどが、そうだったのか!とストンと心の底に落ち着く。

人間は分かり合いたいと願う生き物だ。一人では生きられない、これを「関係欲求」というそうだ。

人間にとって愛し、愛されている実感ほどその人を安定させ、意欲を出させ、幸福を感じさせるものはない。

大脳に損傷を受け、情動判断(快・不快)のみの患者さんが、家族の献身的な言葉かけ、愛撫によって、快情報(愛)が刺激となり脳が活性化されたという実例を紹介している。

活性化によって脳内に新たに情報を処理する回路が作られ、やがて社会復帰を果たされたそうだ。

このことは人間にとって一番大切なものは何か、ということを如実に教えてくれる。

そして、家族の希望や忍耐を支えたのもまた、愛の力といえるだろう。

科学から見た宗教の捉え方は、大変興味深い。難しい点も多々あったので、再読したいところだ。

心を打つのは、著者の科学的解釈の根底に深い人間愛が感じられたことだ。

著者は優れた科学者であり、優れた哲学者でもあったのだと思う。

脳に関する本は「思い当たる節」が満載で、読むそばからあちらこちら思いが飛んでしまう。

感想もとんと纏まらなかったなぁ・・。

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