狂女二人
宮部みゆき責任編集『松本清張傑作短篇コレクション 下』 松本清張 (文春文庫)
下巻の構成は
“タイトルの妙”として
『支払いすぎた縁談』 『生けるパスカル』 『骨壺の風景』
“権力は敵か”には
『帝銀事件の謎-「日本の黒い霧」より』 『鴉』
さらに“松本清張賞受賞作家”の山本兼一、森福都、岩井三四二、横山秀夫 各氏の心に残る清張作品をあげる一文が収録されている。
その中で本書に収められているのは、『西郷札』 『菊枕』 『火の記憶』
『生けるパスカル』は、妻の常軌を逸したヒステリーから、どうにか逃れようとする中堅画家の話。
『菊枕』は、画家の妻を夢見たが夢破れ、俳句の世界にのめり込み、師と仰ぐ人物に狂信的な執着を持つ女の話。今でいうストーカーだ。
どちらも狂った女の話だが、前者は夫を後者は師を独占したいと思うあまりに狂っていく。
独占するということは、自己と相手との距離を限りなくゼロにしたいと思うことだろうか。相手を自己に取り込もうとする。
個人として立つには正常な距離が必要だ。強引な侵入者は排除される。
狂った女の景色はとても寂しい。切欠が男というところが、たまらなく哀れだ。
『鴉』は、サラリーマンとして「落伍者」の烙印を押されている主人公が、会社の組合幹部を押しつけられたことから、態度を一変、借り物の権力を傘に理不尽な要求を振りかざす。
権力欲に取り憑かれると人間魔物になる。彼の顛末はあまりに身勝手で滑稽にみえた。
清張作品は、人間の負の部分を読者にさらけ出している。読後感は暗く沈鬱だ。
それでもなお惹かれるのは、清張の描く悪人が、誰もが共感しうる悪を体現しているからだと思う。
“狂女二人” に対して1件のコメントがあります。
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自分が本当はどういう人間なのか、自分自身にすらよくわかってはいない。もし自分の心の奥底に潜んでいる隠れた欲望、それも魔物のような負の欲望が何かのきっかけで浮上してきたらどうしようか、と思うとそら恐ろしくさえなります。だから年をとってボケたくないな。ボケて理性がきかなくなって、とんでもない自分があらわれたらどうしよう、なんて思うんです。考えすぎかしら。