つまらないワケがない。
宮部みゆき責任編集『松本清張傑作短篇コレクション 上』 松本清張 (文春文庫)
清張好きを自認する宮部みゆきが選ぶ、上中下3冊からなる傑作短篇集。
各短編には“前口上”として宮部氏の解説が付き、否が応でも期待が高まるという仕組み。
収録短篇は
『或る「小倉日記」伝』『恐喝者』『一年半待て』『地方紙を買う女』『理外の理』『削除の復元』『捜査圏外の条件』『真贋の森』
さらに昭和史の研究家としての著作
『昭和史発掘』の抜粋 『日本の黒い霧』より「追放とレッド・パージ」
どれも面白いのは当たり前として、以前から私のお気に入りなのは『真贋の森』
画壇の権威というものを痛烈に批判した作品。
アカデミズムから抹消された男 宅田伊作が、自分を陥れた日本美術史界の大ボスとその追従者に復讐の罠をしかける。
宅田は恩師津田から受け継いだ卓抜した鑑定眼をもって、無名の画家を贋作者に育て、浦上玉堂の完璧な贋作を作り出す。
そして、それをアカデミズムの鼻先に突きつけ、真贋を問う。
アカデミズムの権威が試されることになるかもしれない。俺の≪事業≫は、この小さな試験で次の段階にとりかからねばならなかった。それがそもそもの目的である。それは人間の真贋を見極めるための、一つの壮大な剥落作業であった。 (P376)
登場人物のそれぞれに、人間の醜さ、寂しさ、愚かさが見える。
が、不条理を飲み込みながら、なお生き続ける人間の強かさも感じずにはいられない。
橋本治のある本に、三島由紀夫が選考委員をつとめた文学全集に、彼が松本清張の1巻を入れることを頑なに拒んだ。というエピソードがあった。
橋本氏はその理由を、三島から清張作品を見ると「大人の小説」のように見え、そして自分の小説は「子供のようなこじつけ小説」に見えることだろう。三島が清張を拒絶するわけが何となく分かる・・というようなことが書かれていたのを思い出した。
私はまだ清張の長編作品を全く読んでいない。短篇辺りでウロウロはしているばかりだ。
実は老後の楽しみじゃないけれど、あとでゆっくり長篇を楽しもうと思っていた。
しかしだ・・
いつまでもあると思うな、根気と視力。 そろそろ前倒ししようかなぁと思い始めている。