徒 然 日 記

05/2/5(土)

『高山宏 表象の芸術工学』鈴木成文 監修(工作舎)読了。
大学での高山氏の講義をまとめたもの。読んでいるだけで教室に圧縮された「知」の熱気が伝わってるようだ。一冊の本の中にこれほどの驚きと発見があるとは!

高山氏は、目で見ることの出来るものすべてを対象にする視覚文化を考えてみようと説く。
ミケランジェロもミッキーマウスも、怪しげな見せ物も、目で見ることの出来る表象について、根本的な議論をなすべきではないかという。
それには、文学、建築学、天文学、あらゆる垣根を超えたダイナミックな関係の発見こそが、従来の閉鎖的な美術史から脱却するものとしている。

洋の東西で不思議なパラレルがみれれる18世紀、ピクチュアレスクなイギリス庭園と、北斎の風景の関係。マニエリスムの驚異、蒐集から、分類、啓蒙、美術館への発展なども興味深い。
また、インテリア(室内装飾)とインテリオリティ(精神的内面)の鏡映も面白い。
シャーロック・ホームズが、「ワトソン君、君って頭悪いね、頭の中の部屋の整理が出来てない」と言う言葉を引いており、言い得て妙という感じ。

ページのあちらこちらに「吹きだし」よろしく、散らしてある警句、提言、名言を読むだけでもワクワクする。
曰く「メディアとは、もともと人と神とをつなぐ巫女のこと。」
  「詩もデザインの問題としてある。建築そっくりです。」
  「光の啓蒙時代が、影狂いのロマン派を生む。」
  「植物を通して占有する帝国主義って知ってる?」
などなど、興味津々といったところ。

巻末にある「受講者と読者のためのリーディング・ガイド」は有り難い。
縦横無尽でエキサイティングな高山氏の言説を、少しでも理解、消化するために、格好の書物たちが勢揃いしている。


05/2/2(水)

『文士の魂』車谷長吉(新潮社)読了。
自らを「反時代的毒虫」と称して憚らない。陰惨な私小説を書く。表現がくどい。粗野。卑屈。いじけた精神。そんなものをこれでもかと見せ付ける。
『鹽壺の匙』『赤目四十八瀧心中未遂』・・辟易としながらも、何故か読んでしまう。牽引力があるとはこういう作家を言うのだろうか。
本書は、そんな一癖も、二癖もある車谷氏が衝撃を受け、また敬愛する作品を紹介している。

「愛の小説」では、『愛の渇き』三島由紀夫、『雨やどり』半村良、『夏の栞』佐多稲子

「恐怖小説」では、『剃刀』志賀直哉、『片腕』川端康成、『出口』吉行淳之介

「夢の小説」では、『件』内田百閨A『夢の中での日常』島尾敏雄、『追跡の魔』埴谷雄高

上記はその一部。なかなか濃厚なラインナップのように思うが、どうだろう。
それぞれの作品に、氏独特の思い入れの強さがあり、いかにして自らの血肉としていったかが、語られている。
因みに、『片腕』は私の大好きな小説だ。

「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。

こうはじまる、川端康成の傑作短編だ。
車谷氏は「恐怖小説」のところで、「恐怖は人の精神を浄めてくれるのである」と結んでいた。


1月